イップスについて

イップスとは?

イップスとは、「これまでできていた運動動作が心理的原因でできなくなる障害」と広辞苑に掲載されています。

もともとはゴルフで使われていた言葉でしたが、現在ではあらゆるスポーツにおいて使われるようになりました。

スポーツ(野球、ゴルフ、卓球、テニス、サッカー、ダーツ等)の集中すべき場面で、プレッシャーにより極度に緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こし、本来当たり前のようにできていた動作に対し、思い通りのパフォーマンスを発揮できない症状をいいます。

イップスの語源は、英語で「子犬が吠える」という意味の「yip」からきていると言われています。

イップスの症状

イップスの症状は、個人や競技ごとに様々です。

以下は、各スポーツにおいての症状の例です。

野球

  • 急にストライクが入らなくなる
  • 投げる動作の途中で固まる・止まる
  • 近い距離でうまく投げられない
  • 元々の投げ方がわからなくなる
  • 簡単なゴロの処理でも悪送球をしてしまう
  • 緩いボールが投げれない
  • 指先の感覚がなくなる

ゴルフ

  • パットでかなり手前にショートしたり、極端にオーバーする
  • パットで緊張から手が自由に動かなくなる、震えが出る
  • ティーショットで構えてから動き出せない
  • スイング途中で止まってしまう
  • ドライバーが不安で使うのを避ける
  • シャンクが止まらない

テニス

  • サーブが思うように打てない
  • バックハンドはできるが、フォアハンドだけが思い通りに打てない
  • テイクバック時にラケットがどこにあるか感覚がない
  • 壁当ては出来るが人になると打てない
  • トスを上げる際にボールが離れない

ダーツ

  • テイクバックした腕が硬直してしまう
  • 離そうとしても手から離れない
  • 投げる前にダーツをポロポロ落としてしまう
  • 人に見られているとうまくいかない

症状例をみてみると、長年の経験や反復練習によって、ほぼ無意識にできるようになっていたはずの動作に起きる特徴があります。

またイップスの中でも「ある特定の状況下(不安や恐怖の強い場面等)で症状が出る」ケースと「状況に関わらず(動作自体がわからなくなる等)症状が出る」ケースが存在します。

イップスの原因

イップスは、脳が原因で起きている症状だと考えられます。

人間の脳には、大脳、脳幹、中脳など様々ありますが、当所ではその中でも「小脳」がイップスに関わっていると考えています。

小脳は、「運動の司令塔」と言われ、運動をコントロールする役割をしています。

姿勢保持のためのバランス調整や距離感の調整、身体を動かすために、筋肉や関節をどう動かすのか計算する機能を持っています。また、運動を記憶する働きもあり、一度行った運動動作を次回行う際にも発揮できるように記憶してくれています。

例えば、自転車を練習すれば乗れるようになるのは、この小脳が動作の調整や修正、記憶をしてくれているからです。

イップスの症状を振り返ってみると、

  • 力加減が調整できなくなる(距離感の調整)
  • 今までできていた動作ができなくなる(運動動作の記憶)
  • 感覚がわからない、修正が効かない(運動動作の修正)

など、この小脳が正常に機能していない状態に陥っていると考えられます。

では、なぜ小脳でこのような不具合が起きてしまうのか。そこには心理的な要因が関わります。

例えば、

「また失敗したらどうしよう」
「失敗したら責められるんじゃないか」

「指導者やチームメイトに認めてもらいたい」
「簡単なプレーだから失敗してはいけない」
「言われた通りにやらなければいけない」

このような過去の経験からくる不安や恐怖、本人では自覚していない我慢やストレス、「こうあるべき」といった観念などが極度の緊張を生じ、無意識に筋肉の硬化を起こすなどの身体症状としてパフォーマンスに表れます。

イップスの克服

イップスを克服するためには、脳と心と身体のケアをすることが必要です。

この3つは密接に関わっており、どこか1つに不具合が起きていると、運動動作は正常に機能しなくなります。

脳(無意識の領域のケア)

イップスは本人の意思と関係なく起きてしまう症状、つまり無意識が引き起こす症状です。

そのため、本人が意識的に「ああしよう」「こうしよう」と思っても改善が難しいどころか、悪化してしまうケースすらあるのが特徴です。

心(心理的要因)

イップス症状は、過去の経験からくる不安や恐怖や、本人が自覚していない我慢やストレスからくるものが多いです。

そのため、「また起きるのではないか…」といった予期不安を手放すことなど、本人が過去の出来事を受け容れ、その上で対処することで乗り越えるために前進することができます。

また、イップスに悩み続けてきた選手は必要以上に自信をなくしていたり、うつ傾向が見られる場合があります。

まずは、競技に対して前向きに取り組める精神状態、リラックスした心の状態であることが乗り越えるためにつながります。

身体(技術的要因)

心や脳の仕組みを理解した上で、技術的なケアをすることで改善されやすくなります。

・指先や手首、腕などを過剰に意識しすぎてしまっている
本来必要な力以上に力んでしまっている
・自分に合った自然なフォームではなくなってしまっている

など本人の中で自然な動作の妨げとなっている部分に本人が気づき修正することで、最終的にイップスを乗り越えていくことができます。